時事語、話題語、ビジネス・暮らしのことば、日常語に対応する今アメリカなどで使われている英語がみつかります
2016年02月17日
「げすの極み」を英語では
人気タレントのベッキーさんと「ゲスの極み乙女」のバンドリーダーの川谷絵音さんの不倫が芸能メディアで執拗に報道され続け、「げす」とか「げすの極み」いう言葉が蘇った。
漢字では「下司」とか「下種」と書くのだけれど、昨今では使う人がほとんどいない死語同然だった。 「下劣な人間」というその意味すら知らなかった若者もいたはずだ。それが、ここ1か月余り、週刊誌、スポーツ紙が執拗にフォローアプ記事(follow-up stories)を書き続け、それをテレビのワイドショーがとりあげたため、ちょっとした流行語となった。
奥さんの出産を前に「育児休暇をとる」と宣言しつつ、タレントと不倫をしていた自民党のイクメン衆院議員(35)について報じる新聞記事には「げす不倫」ということばが使われた。
「げす」はおおかたの和英辞書には、mean fellowという訳語がのっている。ここのmeanは形容詞で、「卑劣な」「下品な」「さもしい」「意地悪な」「ひきょうな」という日本語にあたる。だから、「げす」を「卑劣な奴」だとしての英訳がmean fellowということになる。
少しばかり調べてみたところ、mean fellowは、日々の言葉としてはアメリカではあまり使われてはいないようだ。
「げす」とは相手を「最低の人間」などと罵倒するときの言葉だ。「ゲスの極み」は「サイテー中の最低な行為や、それをする人間をいう。
「あいつは最低な奴だ」とか「彼、サイテー」というのが現代的な言い方だ。昭和の初期あたりなら「あれはげすだ」などと言っていたところだ。
そんなとき、昨今のアメリカ人たちは、どういうのかというと、
He’s an asshole.
とか
He’s a scum.
と言う。Assholeは、教養ある人間は使うのは極力避けた方がいい下品な言葉で、その意味するところは「ケツの穴」で「くそったれ」に近い。Scumは「くず」「かす」だ。ともに相手の嘘、偽りの言葉やアンフェアーなやりかたなどに腹を立てたときに発せられる。
ずいぶん昔の話になるが、アメリカの大学院に留学していたときに、He is an asshole.と陰で呼ばれていた不人気教授がいた。この人は学生の好き嫌いが激しく、それが成績評価に反映する、というのが理由のようでであった。
「げすの極み乙女」というバンド名は、たぶんごく感覚的なもので、深い意味はなかったのだろう。が、しかし、清楚なイメージで売っていただけに、ベッキーの好感度には大打撃となった。この22歳のイギリスと日本のハーフのタレントが正反対の「げすの極み乙女」と「不倫」が連想されることを嫌ったCMスポンサーはすべて降りて、数億円というCM契約は破棄された。
ところで、「げすの極み乙女」はウィキペディアの英語版にもGesu no Kiwami Otomeとして掲載されておりGirl at the Height of Rudenessと英訳されている。これを日本語に戻すと「下劣きわまりない女の子」となる。
「歯舞」を読めなかった沖縄・北方担当大臣とか、公設秘書がトラブル解決の「口利き」の見返りに数千万円やレクサスをおねだりしていた甘利明・元TPP担当相など 「げす」とまでは言ないが、「最低だ」と叫び声をあげたくなるような自民党の国会議員がこのところめだつのは困ったものだ。
(引野剛司・甲南女子大学教授 2/17/2016)
ここで紹介した表現は、米国での複数の実用例に基づいています。その他の実用例や関連表現は実用・現代用語和英辞典(本体)(www.waeijisho.net)をご覧ください。